1.TACの方々
TACの合格体験記を読む限り、資格に興味を持つに至った経緯も反映してか、他の会計資格と併せて取得される方が多い印象を受けました。
多くは、既に公認会計士(日本・米国)、税理士(日本・米国)であるか、現在受験中で、そのついでに取得されるというケースのようです。
その他の方々も、普段は財務・税理関連の業務をされている方々が多かったです(監査法人、税理士法人、コンサル、企業の財務部門等)。
2.私の場合
私の場合は、米国弁護士になった後の受験ですので、少々異色かもしれません。私が受験した動機は、大体以下でした。
(1)個人として税法・税務分野の知識不足を感じていたため
・「貯蓄から投資へ」との日本でも起こりつつある流れも踏まえ、少し前から投資・資産運用に興味を持つようになりました。他方で、以下のように財務・税務面での知識不足を痛感する場面が多々ありました。
①株式や投資信託を通じた資産運用をしようとしても、財務分析ができない。「オススメ銘柄」とか言われても、本当にお得かどうか判定できないので、手も足も出ない。
②長期インデックス投資等では、収益率が限られる以上(年数%とか)、コスト(手数料、税金等)をいかに抑えるかが重要となるが、税金の制度・内容についてあまりに無知である。
・早急に対応すべく、証券外務員・FP2級・簿記2級等の資格を取得しました。それぞれ有用ではありましたが、知識不足感は依然として残りました。無知の知こそありましたが、その分賢くなった自覚は特にありませんでした。
(2)業務上、対応できる幅を広げるため
・普段、会社の事業に法務面から関わっていますが、財務・税務的な検討事項が顔を出す場面は結構多く(例:開示、海外課税、海外進出、グループ内取引など)、都度断片的な知識で対応していることに不足を感じていました※。
※法務と財務・税務分野は傍から見ると超隣接分野ですが、意外と両者の間には壁があるというのは、このあたりの業務に関わっている方々からすると、あるあるかと思います。(例:日本の場合、弁護士のうち税理士登録もしている方は全体の1%弱です。)
他に専門家がいる分野については「餅は餅屋」に任せ、自分は強みを発揮できる分野に特化するというのは、事業戦略としてはとても自然に思います。
他方で、組織内で執務に当たる者としては、専門家というよりはむしろジェネラリストとして幅広い知見・素養を要求される場面の方が多く、そのあたりが専門家にはない強みの源泉にもなるような気もしています。
(3)実務に必要な知識セットを効率良く身に付けようと思ったら、手っ取り早いのは資格試験。
・これは社会人になってから一貫して感じていることです。
・元々、大雑把な頭の作りしかしておらず、「大体分かっていれば良い」がモットーの私としては、「細かな知識をあれこれ詰め込んでも、どうせ大部分はいずれ忘れる」という、これまでの人生の中で何度も繰り返し経験してきた、圧倒的に説得力ある現実から出発しなければならないとの銘記だけはありました。
・どうせ勉強してもいずれ忘れるのであれば、余計なことに拘っている余裕はありません。「今後、生きていく上で、どうしてもこれだけは勉強しておくべき」と自分が考える分野の、基礎的な知識体系を習得することに注力すべきというのが、頭脳キャパの少ない人間としての基本戦略でした。
・コスパの面では、前述のとおり、競争試験たる日本より能力試験としての性格が強いアメリカの方が、試験としての効率が良いとの経験則もありました。
(4)その他/初期段階で興味を持つきっかけとなった本
・橘玲氏の著作にはいつも刺激を受けていますが、税金という分野に開眼させてくれたのは下記3部作でした。
・教科書に載っているような抽象的な理論ではなく、現実社会を生き抜く人々の人間ドラマを見せてくれます。
・20年近く前の作品であり、現在では制度が変わっている内容もありますが、まだ読まれていない方にはお勧めです。
橘玲『マネーロンダリング』(2003)
-世界の人口の95パーセント以上は、日本国が破産しようが金融恐慌が起ころうがどうでもいいと思っている。秋生もその一人だ。国家の破産はべつに珍しいことではない。肝心なのは、自分がどう生き残るかだけだ。(87頁)
橘玲『永遠の旅行者』(2008)
-【PT】Perpetual Traveler
永遠の旅行者。どの国の居住者にもならず、合法的にいっさいの納税義務から解放された人々。国家にとらわれず、自由を求めて世界を旅する独立した個人のライフスタイル。(註書)
Perpetual Travelerとなった元弁護士が主人公です(笑)。2006年山本周五郎賞候補作。
橘玲『タックス・ヘイブン』(2014)
-ひとはみんな、自分の利益を最大にしようと思って生きている。(447頁)
古橋隆之+GTAC『究極のグローバル節税』(2014)
-日本企業の海外進出の流れが止まらないのは当然といえます。現在の日本が置かれている状況は、その流れを加速させる大きな要因ですが、そもそも企業活動はボーダーレスですから、もっとも利益が上がり、仕事をしやすく、税金が安いところに向かうのは企業にとって自然なことにすぎません。(147頁)
当初、国際税務の分野に興味を惹かれました。国家の枠組みを超えてグローバルに戦略を構築していくという視野の広さに魅力を感じました。
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